足跡に、吹雪を

此処には何も残らない

気づけばいつもボロボロで、取り返しのつかない過去に絶望しては、どうにもならない未来に目を細めている


僕は生きている


君も生きているだろ?


なぁ、眩しくないかい?


さぁ、暗いかもしれない





配達中に足首を豪快に捻った。深夜、他人の家の庭で震えながら倒れていた僕は、どうしようもなかった。まだ仕事は半分残っている。雨の日に荷崩れして投げ出したくなって、目の前のバイクと新聞をを冷たい雨に打たれながら眺める心の静けさを、その日、数ヶ月ぶりに思い出した。


おそらく日中でも、見て見ぬフリをする人がほとんどで、故障した機械が厄介扱いされるような視線を浴びるだけ。深夜でよかった。そうは思うと同時に、モロッコの知り合いが頭を過る。


言語学習アプリで知り合った彼女は若くて、とても聡明で、イスラム教の突っ込んだ話も僕の拙い英語を汲み取りながら色々と教えてくれた。そんな彼女とはすでに半年弱ほど連絡が続いていて、かまってちゃんな僕の駆け引きにも、なんだかんだいつも返信をくれる。僕の中では、友達以上の存在になりつつあって、嫌なことや、足をくじいた、痔になった、なんて話までしている。


だから、このまえ足をくじいた事も彼女に伝えた。そうしたら、よく足を挫くなら、もっと注意して仕事しなきゃ。って言ってくれた。若くても長女だからしっかりしている。とても嬉しかった。親に心配されるとうざったいのに、彼女の心配はとても嬉しい。


仕事から家に帰ってご飯を食べていると伝えると、おかえり、とローマ字で送ってくれる。それだけで何だか救われた気になるのは、なんだか軽率な気がして自分を疑ってしまうけど、すごい幸せな事だと感じる。


だから僕は、ただいま、とローマ字で返す。


足をくじいても、手を差し伸べてくれる人がいる。


この道の先に何があるかなど考えない。


ただ破滅へ向かっているのかもしれない。


でも、独りで歩を進めるたびに、独りの人に救われてきた。


明日も眠気まなこに昼の日差し。


ボロボロに透けた影の隙間から。